« 僕と違う「彼の当たり前」 | トップページ | 子どもは遊びのスペシャリストです »

2006年6月 9日 (金)

改札前で「ひとりとひとり」芝居

今日は朝早起きして、知人に荷物を届けるために自転車でとある駅に行った。

着くと、指定された改札前は、会社や学校へ向かうであろう人の波でごった返していた。

僕は、改札から少し離れたところに自転車を止め、降りて待った。



指定された時間までは、まだ5分くらいあった。余裕だ。
知人が来るかと、あたりを見回しながら待った。

すると、隣に、背の小さいかわいらしいおばあさんがやってきて、ぽつんと僕の隣に立ち始めた。

おばあさんも人を待っているのかなと、彼女を見ると、

「あの時計は見にくいわね」
と、僕でも見えない、改札奥の駅の時計を指差して話しかけてきた。

僕は気を利かせて、自分の携帯を取り出し、
「今は8時30分ですよ」
と、教えてあげた。

「あの時計、見えないわよね」
おばあさんは、時間のことより、遠くて見えない時計のことばかり気にしていた。



おばあさんは時計を見るのに飽きると、バックから紙を取り出し僕に見せてきた。

「改札前、8時30分って書いてあるわよね」
見ると、白い紙に、おばあさんが手書きで書いたと思われる大きな文字で
「改札前、8時30分」
と書いてあった。

「そうですね。合っていますよ」
おばあさんにそう答える。

「そうよね。まだ来ないのかしら」
おばあさんは、また、改札を眺めてそう言った。



と、僕の待っている知人がやってきた。
約束の書類を相手に渡す。

知人とその書類のやり取りをしていると、急に隣にいたおばあさんが
「劇団一人芝居の方ですか」
と、大きい声で尋ねてきた。

びっくりして唖然とする僕。

「いいえ違います」
冷静に答える、僕の知人。



え?一人芝居?
誰かと勘違いしている?
ん?僕を知っている人?
いや、おばあさんがやっている人?

僕のあらゆる器官という器官を総動員させ、この事態を対処しようとする。

え?え?



この状態の僕を察することなく、知人は
「それじゃあ、ありがとう」
と、改札を抜けて行ってしまった。



残された、僕とおばあさん。

帰るに帰れなくなった。
膨らむ疑問。

聞こうと思うのが先か、口が先か、自転車のスタンドを起こしながら、
「え、おばあさんは、芝居をやっている方ですか?」
と言った。

「ああ、今日はスタッフがここに迎えに来ることになっているんだけど」
おばあさんは言う。

「え、おばあさんがひとり芝居をするんですか?」

「ああ」

「どこでですか」

「それがわからんのじゃよ」

おばあさんが何者なのか聞き出そうと、質問を繰り返す。



しかし、この小さなおばあさん、ひとり芝居をやるのか。
すごいなあ。
でも、やる場所わからないってどういうことだろ。




「僕も芝居をしてて、一人でやるのですよ」
ビックリした理由を説明しようと、僕の生業を教える。

「そうだと思ったよ。だから自分が待っている人かと思って聞いたんだ。そういうオーラを持っていたから」

あら、おばあさん。全部お見通しなのね。なら、最初から言ってくれればいいのに。
でも、本当かな。もしかしたら、話を合わせてくれただけなのではないだろうか。



「帰らなくていいのかい」
自転車のハンドルを持って立っている僕を見かねたのか、おばあさんがそう聞く。

「いいえ。急いでないですから」
おばあさんが誰を待っているのか知りたい。
5、10分の話だろ。
待つことにした。



それから5分経ったくらいに、若い男性の方が
「お待たせしました」
と、現れた。
男はスタッフさんのようだ。

「もう、行くのかい?」
と、おばあさんが若い男に聞くと、
「いえ、まだ来る人がいますから」
と答え、あたりを見回した。




あれ?一人芝居をする人ではないのかな?
まだ来る人いるって言ってたもんな。
「??」
状況もおばあさんが何者なのかもわからなくなってしまった。



おばあさんは疲れたのか、若い男に
「向こうのベンチに腰掛けていてもいいかい」
と、引き連れて歩いて行ってしまった。

僕に軽く一礼をして。



残された僕。

疑問を改札前に残し、サドルに股がり帰ることにした。




「ひとり芝居」を通した、二人の出会い。
偶然か必然か。
たまたまか間違いか。

おばあさんの名前も知らなければ、僕の名前も伝えていない。

|

« 僕と違う「彼の当たり前」 | トップページ | 子どもは遊びのスペシャリストです »

コメント

そのうちお仕事でお会いになれるといいですね~

投稿: 夕陽 | 2006年6月 9日 (金) 01時20分

なんだかすごい。読んでてこっちがドキドキしてしまった。
なんかでも、ほんとにそのうちまたお仕事とかで会うことになるんじゃないかな。。。と思ってしまいました。

投稿: えみえみ | 2006年6月 9日 (金) 10時43分

年輩の人が「オーラ」なんて言葉いうんだ~
偏見かもしれないけど、言葉が若いと
現役で何かしていらっしゃるのかな?
なんて思っちゃいます

おばあちゃんがどこかの舞台で
今日も頑張っているかもしれないですね

投稿: にゃんたん | 2006年6月 9日 (金) 10時52分

>夕陽さん

そうですね。
今度は改札前ではなく、どこかの劇場で。

投稿: りょーちん | 2006年6月 9日 (金) 14時00分

>えみえみさん

ぼくもドキドキでした。
かけられた言葉が「ひとり芝居」ですから。
「僕の何を知っているの?」
と、ドキドキものでした。

はい。また、お会いできればと思っています。

投稿: りょーちん | 2006年6月 9日 (金) 14時02分

>にゃんたんさん

やはり顔の色艶がよくて、若く見える方でしたよ。
「おばあさん」っていう典型てきな感じの人でした。

朝だから、かなり寝ぼけた顔をして行ったのですけどね。
「オーラ」なんてひとかけらもないような状態で。

投稿: りょーちん | 2006年6月 9日 (金) 14時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/34181/2134846

この記事へのトラックバック一覧です: 改札前で「ひとりとひとり」芝居:

« 僕と違う「彼の当たり前」 | トップページ | 子どもは遊びのスペシャリストです »